フェティシズムの動物モデル

最近は研究が一段落したので好きな勉強ばかりしています。
今興味があるのは早漏の神経メカニズムとか。早漏は英語でpremature ejaculationと言うんだよ。困ってる人がたくさんいる身体異常は研究が進むんだよ。

さて、今回はフェティシズムの研究に関する話をしましょう!

世の中にはいろんなフェチの人がいるよね。
精神疾患の診断基準であるDSM-Ⅳでは、フェチの定義は「6ヶ月以上にわたって、生命のない対象物に対する強烈な性衝動、妄想、行動が持続、反復する」とされている。

大事なことだけど、フェティシズムは「生命のない対象物」じゃないとだめなんですよね。だから脚フェチとかってDSM-Ⅳからするとフェチとは言えないのです。
無生物なフェチの対象として有名どころでは、パンツ、靴、ニーソ、ヘアゴム、キャミの肩紐、とかかな。フェチの人は、実際に女の子がいなくても、パンツや靴やニーソやヘアゴムやキャミの肩紐だけで抜ける。女の子いなくても想像だけでOK。


今日は「An animal model of fetishism」という論文を読みました。日本語にすると「フェティシズムの動物モデル」。ヒトで見られる性的嗜好を動物でも再現できたという論文だ。簡単に内容を説明しましょう。

実験動物としてウズラを用いた。ウズラを入れる装置として、だいたい1メートル四方くらいの箱を使っている。箱にはゲートが付いていて、ゲートが開くと隣の箱と繋がり、そこからメスが入ってくる。ウズラはムラムラしてるから、メスと出会うと押し倒してあんなことやこんなことをするぞ!

実験手順としては以下のとおり。

  1. 箱にウズラ(オス)を入れる
  2. なんかタオル地で作ったちっちゃい物体をウズラのいる箱に入れる
  3. ウズラをタオル物体に触れさせたあと、ゲートが開き、メスがやってくる
  4. ムラムラしてたオスはメスとフリーセックス!!

わかりやすくわざわざイラストにしました。

この一連の条件付けを30回繰り返した。

すると、ウズラはタオル物体を入れただけでメスが出てくるゲートに近づくようになる
つまり「タオル物体」と「セックスできる」の連合学習が成立したのだ。
かの有名なパブロフの犬の「ベルの音だけで涎出す」っていうのと同じですね。

次に、この連合記憶の消去学習をする。
すなわち「タオル物体を提示するけどメスは出てこない」っていう逆の条件付けをする。

すると、この連合記憶は消去され、ウズラはタオル物体を提示されてもゲート側へ近づかなくなった


ところが! 面白いのはここからである。
最初の条件付けのとき、すべてのウズラが連合学習してタオル物体でゲートに近づくようにはなったけど、その中で数匹はムラムラしすぎてタオル物体を掴んだり覆い被さったり、言うなれば「押し倒す」的な行動をしたウズラがいたのだ。
つまり、いくつかのウズラはタオル物体が好きになりすぎて、タオル物体そのものに欲情するようになったのだ。

そして実は、このような「タオル物体そのものに欲情したウズラ」に対しては、消去学習が成立しなかった! メス無しでタオル物体だけを提示し続けても、いつまで経ってもゲート側に近づいたのだ。


ここから考察できるのはこういうことである。
すべてのウズラはタオル物体とセックスの条件付けが成立し、「タオル物体のあとにフリーセックス」という流れを学習した。
ところが、中にはタオル物体そのものにムラムラしちゃうウズラもいた。こいつらは本物のメスがいなくなったあとも、タオル物体に対して興奮し続けた。つまり「タオル物体フェチ」になったのだ。

これってヒトにおけるフェティシズムの形成とすごい似てるんですよ。
例えば下着フェチの場合。彼らは女性下着そのものに興奮するし、下着だけでもちろんオナニーする。パンツにぶっかけとかもする。
でも最初はそうじゃない。最初は、下着を女の子が履いてるのを見て興奮したはず。最初は「下着を付けた女の子」に興奮したはずだ。その後、一部の男は下着フェチになって、下着だけで興奮してオナニーするようになるのだ。

下着=タオル物体とすれば、この論文の結果とすごく似ている!
なのでこの論文では、フェティシズムの形成というものを非常によく模倣した動物モデルを確立できたといえよう。

ちなみに、すべてのウズラは全く同じように条件付けを行っている。したがって、タオル物体そのものに欲情するようになるかどうかは、完全に個体差によるものだ。
このことから、フェチは先天的なものであると考えられるのではなかろうか。タオル物体フェチになるかどうかは、個人差なのです。

だから、男が下着フェチになるか、靴フェチになるかっていうのは、きっと生まれながらにしてある程度規定されているのだ。才能があるやつは無生物な下着や靴だけで興奮できるようになるが、できないやつはずっとできないのだ。性的嗜好は生まれながらにして決まっているのかもしれない!


こうやってヒトでの現象をより低次で本能的な動物で模倣する研究ってすごい面白い。それが性に関することならなおさら!
にしてもほんま学会とかで「この研究がどう人類に貢献するのか」って叩かれそうな研究やね。俺はこういうの大好きやけどね。

ちなみにウズラは英語でJapanese quailと言うらしいです。因果を感じる。


参考文献:
An animal model of fetishism
Köksal et al., Behav Res Ther, 2004