うんち発言病(うん発病)

今晩帰り道寄ったコンビニで、会計してもらってるときのこと。
「うんち、うんち、うんち……」とつぶやく自分に気づいた。

いやー、ショックだった。
もちろん店員さんに聞こえないくらいの小声だけど、それでも、他人と1メートルない距離でウンチウンチと独り言を言うてしまうとは。
今まで一人のときウンチウンチ言うことはあった。ままあった。
自転車に乗ってるときとか、人に聞こえない距離ならばずっと「一にうんち、ニにうんち、三四がなくて、五にうんち!」って歌ってた。最近は英語版もね。
でも、でもね。これを無意識に人前でも言ってしまったことが問題なのだ。

もうこれは一種の病気である。
人前でウンチウンチ言ってしまう病気。うんち発言病(USD: Unchi Speaking Disease)と命名しよう。
俺はうん発病だ。
病気とは、生物の生理学的機能になんらかの異常が生じた状態のこと。うんちって言ったらあかん場面で無意識に言ってしまってるんだから、これは異常だ。病気だ。

まあ、僕は疲れていたのだ。だから、行動に抑制をかける前頭葉のはたらきが弱まって、抑えられず「うんち」と発言してしまったのだ。
それはまあいい、それはいいとして

問題は「なぜ『うんち』か?」ということだ。
数ある言葉の中から、なぜ「うんち」が飛び出てきたのか?
今回はそれについて考えてみたい。

第一に、「うんち」は発音しやすいためだ。
言いやすい言葉は口から出てきやすい。うんちはすごく言いやすいのだ。

うんちと言いつつも、正確には「ンチ」みたいな発音だった。
まず「ン」。「ン」は口を開けなくても言える、最も言いやすい文字だ。口を閉じた状態で鼻の奥を振動させ鼻から空気を出す。これだけで言える。というか口を閉じたまま何か言おうとすればだいたい「んー」になる。
次に「チ」。英単語を例に挙げればわかり易い。例えば、touchやcatchという単語。ここでいう「チ」は「chi」というより「ch」なのだ。舌を上前歯の後ろにつけた状態で乾いた空気を出してやれば出る音。苛ついた時にとっさに「チッ」と言ってしまうほど、発音しやすい音だ。
さらに「ン」との組み合わせも良い。「ン」で空気を吐きながら舌を「チ」の位置に乗せて口を開けば、「ンーーーチ」と言える。
つまり、「うんち」すなわち「ンチ」「nnch」は、非常に発音しやすい単語なのだ。

さて、「うんち」が言いやすい単語であることはわかった。
しかし、他にも「うんち(nnch)」並に発音しやすい単語は他にもあるはずである。

例1「ふっく(fook)」 ... 短く息を吐く「ふっ」と、喉の奥で短く息を詰まらせる「k」のコンビネーション。
例2「んぷす(mmps)」 ... 前述の「ン」の後、唇を少し動かすだけで容易に「p」「s」の音が出る。「ンチ」より簡単そう。

他にもたくさんあるが、なぜ「うんち」なのか。
なぜ僕は「うんち」しか言わないのか。
これには発音の容易さ以外の理由がありそうである。

そこで考えられるのは、「俺がうんち好き」という理由である。

好きだからたくさん言う。あるいは、たくさん言って来たから、うんち言うのに特化した口になっている。そのためなのではないか。

お察しの通り、これはなかなか真実に近そうな説である。
昔から、僕はウンチに接することが多かった。一般的な人間よりも多かった。

まず、僕の父は、ウンコのことを「うんちゃん」と呼んだ。
ウンコのことをウンチだとか大便だとかいうよりも、愛らしく、親しみやすかった。だから僕とウンコの距離も自然と近づいた。まるで友達を呼ぶかのように「うんちゃん」と言った。ツカモトくんはつかちゃん、ミサキさんはみっちゃん、ウンコはうんちゃんである。

小学生の僕はその呼称をとても気に入った。
やがて「うんちゃん」は「うんちゃんくん」に進化した。なぜかはわからない。
さらには、ウンコ以外のものをうんちゃんくんに仕立てあげ始めた。そのへんにあったぬいぐるみ的なモノを持って「うんちゃんくんやで!」と言って、妹に話しかけた。妹もひどく気に入って、兄妹揃ってうんちゃんくんでキャッキャキャッキャしていた。
そのうち「うんくんちん」とかいう亜種も現れた。うんくんちんはうんちゃんくんの父親という設定だった。こうやって僕と妹は、小学生時代を「うんちゃんくんごっこ」をして過ごした。一種のオママゴトである。ままごとは創造力を養う。今の僕がいるのは「うんちゃんくんごっこ」のおかげだと自負している。
そんな妹も今は立派な保育士。きっと園児に「うんちゃんくんやで!」と話しかけているはずである。


まあ、そんなこんなで、僕は昔から「うんち」に慣れ親しんできたのだ。
そんなわけで今も「うんち」という響きが好きなんだろうし、「うんち」と言い続けて来たせいで「うんち」を言いやすい口になってしまっているのだ。

それに加えて「うんち」のいいやすさ。
そして、今の僕がなんかちょっと疲れておかしくなってきていること。
きっとこれらが相まって、うん発病の病因となった。このために、僕は無意識に「うんち、うんち、うんち……」と呟いているのだ。

なんか俺がウンコ好きって思われそうだけど、俺は潔癖症だしウンコは自分のでも触りたくないからね、他人のなら見るだけで吐くくらい耐性ないからね。勘違いしないでね。うんち