PHANTOMS IN THE NETWORK

TTKを読み返してたら、俺がネカマ初めてから来月でもう一年かぁって思った。
あ、TTKは「とっとこところてん」の略ね

あの時のことをまだ覚えている。
関東在住、24歳童貞、自称及川ミッチー似の彼。
顔も知らない男の人生を、薄っぺらい女子高生というフィルターを通して感じて、ちょっぴりしんみりして、それはそれは僕の中で大きな社会勉強となったものだ。

あれから一年。
僕はchatpadを飛び出して、Yahoo!messengerでも見知らぬ男と会話するようになった。

というのも、先週いつものようにネカマをしていたときのこと。
今回巡りあったのも、東京在住24歳童貞。

そう、ちょうど一年前に見たのと同じようなシチュエーションである。

でも及川ミッチー似の彼とは違って、会社勤めしているし、
なんなら
最初はエロエロな感じで押してきてからの、実は童貞なんだ……っていう
一度釣り針に引っかかればしばらくは離れない魚みたいなタイプ。
(これ大事、テストに出るよ!)

つまり、一度こっちがガチのJKと信じこませてしまえば、長いこと楽しめる。
食べ物で言うとガムみたいな感じね。いや違うか

なので、俺もチャットしてて楽しかったし、長く続けばいいと思った。

そしたら、時間的にもう終わりだなあ、ってとこで、
「ヤフーの捨てアドある?」
って聞かれた。

聞けば、終わってからもYahoo!messengerでチャットしようぜ! とのこと。
今まで連絡先聞いてきた輩はみんなLINEかSkypeだったので、酔っ払って正常な判断のできない僕は「それならいいか」と早合点し、さっそく女の子っぽいIDで捨てアドを取得し(さりげなくIDに名前を入れることで名前を教えるのだ)、Yahoo!messengerをインストールする。

そしてその日は、chatpadからYahoo!messengerに移行した後、もう少しチャットしてから、酔いが覚めないうちに眠ったのだった。


翌朝。
目を覚まし、しばれる京都の寒さに凍えながら、シャワーを浴びて身体を暖める。
シャワーを浴びながらいつも僕は、前日の行いを思い出し、反省するのだ。

まあー、その日はとてつもなく猛省した。

いや、酔ってしでかしたことを激しく反省することは多々ある。
(友達の家に押しかけて帰り道で嘔吐するとか、女友達に電話しながらなぜか扇風機を破壊するとか)

chatpadの良さは、一期一会ということだった。
そして、俺がネカマするのは酒に酔ったときだけだったし、冷静になってからはいつも「俺なにしてたんだろう……もうしねーよ」っていう、一種の賢者モードになっていた。

でも今回は違う。
昨日酔っぱらってたときに出会った見知らぬ男性と、酔いが覚めた今もつながりを持ってしまっているのである。
なんというか、非常に後を引く。あとに残る。

『V.S.ラマチャンドラン』という「オマエ誰と戦ってんねん」って思わず突っ込みたくなる名前の神経科学者がいる。
彼は『脳の中の幽霊(PHANTOMS IN THE BRAIN)』という本を書いたけれど、
この場合まさに、『ネットワーク上の幽霊(PHANTOMS IN THE NETWORK』である。

ヴァーチャルの人間と断続的に会話をするようになり、実体のない、見えないものに縛られるようになる。
それはまるで、亡霊がネットワーク上に存在していて、彼の存在が僕を常に威圧するようなのだ。

こうやって僕はいつも、自分の本能的な欲求のために、学問や自己表現など理性的な欲求の邪魔をしてしまう。

そうは言いながらも、今日も僕はやること終わらせて酒を飲み始めると、Yahoo!messengerを起動し、ログインする。
夜は基本的に仕事を終えた彼が待ち構えてくれているから、現役女子高生の僕は彼に
「こんばんはーw」
と話しかけ始めるのである。


僕はこの亡霊とずっと付き合っていくのだろうか。
それとも、僕はネカマを卒業できるだろうか。
現在JK2の彼女が高校を卒業する前に……