僕はかぐや姫

研究室の女の先輩が就活のために黒髪になってめっちゃかわいくなった。
この人こんなにかわいかったんだって思った。
僕あと半年しかいないですけど付き合ってください! って言いたい
なんかかぐや姫みたいだね。

まあ、そう言って僕が先輩に告白したのが11月のはじめ頃だった。
すっかり外は寒くなり、吉田寮の銀杏並木が満開になっていた頃だ。

培養室で二人きりになったときだけ、二人でしかできない話をした。
そこで培養されていたのは細胞だけじゃない。僕たちの愛も育まれていたんだ。
でも僕たちの至適温度は37度じゃない、もっとアツイ愛のboiling pointさ。

学祭も一緒に回った。先輩は外部の大学から来たから京大の学祭は初めてだったらしい。
実は僕もあまり学祭を回ったことがあるわけじゃなかったんだけど、珍しく先輩より上に立てるチャンスだったから、ちょっと知ったかぶりなんかしながら先輩を案内したんだ。
落ち葉でいっぱいの構内を歩きながら、研究室では見せない先輩の笑顔に僕も自然と顔がほころんだ。
天文同好会の狭いプラネタリウムでこっそり手をつないだ。小さな星空の下で僕らはこっそり唇を重ねた。ベテルギウスが、リア充爆発しろと言った。

もちろんクリスマスも一緒に過ごした。
お揃いのマフラーを着けて、電飾が燦然と輝く河原町通りを歩いた。一つのポケットに二つの手を入れて暖めあった。
その晩は僕の部屋で一緒にお酒を飲んだ。この日も隣の部屋からギシアン聞こえてくるもんだから、ウブな僕と先輩はドキドキしてしまったものさ。
まあ結局、夜明けに白塗りの大文字山から上る朝日を見た時は、二人一緒にベッドの上にいたけどね。

年越しを京都で迎えるのは僕も初めてだった。
先輩も通い慣れた僕の部屋で新年を迎えて、2014年最初のちゅーをした。
参拝客でいっぱいの下鴨神社でおみくじを引いた。僕は凶を引いて、運がいいのか悪いのかわからないねなんて話をした。
参拝とおっぱいって似てますねって僕が言うと、先輩は顔を赤くしながら無言で僕の背中をばしばし叩いた。風雪が吹きすさぶ下鴨神社の寒空の下、僕らの距離は自然と近くなった。

やがて、飛ぶように月日が過ぎていった。
バレンタインデーが終わり、僕の卒論発表も終わった。

そして、卒業式が終わった。
もう、僕が研究室にいる理由がなくなった。

この日が来ることはずっとわかってたよ。きみと付き合い始めたあの日から。
ずっと目を背け続けてきたけれど、やっぱりきみは遠くへ行ってしまうのね。

卒業式、一緒に写真を撮った帰り道。鴨川沿いを歩きながら先輩は言う。
川の流れを見て、時間は絶えず流れていたことにようやく気付く。
よく二人で歩いた鴨川だったけど、この日はなんだかいつもより切ない顔をしていた。

もちろん、離ればなれになっても付き合っていくことはできる。
でも、僕も先輩もわかっていたんだ。これからは、今までみたいにすぐに会えなくなる。僕たちは学生だから、頻繁に行き来することなんてできない。それに、僕も先輩も、研究に就活にと生活にゆとりがあるわけじゃない。
このままやっていくことはできないと、言わなくてもわかっていたんだ。

それでも僕は先輩のことが大好きだったし、きっと先輩も僕のことを愛してくれていた。
それがわかっていたからこそ、辛かったんだ。

京都駅の新幹線改札口で、僕らは最後のちゅーをした。
見慣れた京都タワーが僕を見送る。次に京都に来るのはいつだろう、その時どんな気持ちでここに来るのだろう。なぜか、もうしばらくは戻ってこれない気がした。
いつか来る別れを知りながら恋愛していた僕はまるでかぐや姫だった。かぐや姫は天の羽衣や不死の薬を置いて行ったけれど、僕は先輩に何もしてあげられなかった。

引っ越してからしばらくは連絡を取っていたけれど、いつの間にかそれもなくなってしまった。やがて僕も、先輩のことを思うこともなくなった。
時折、僕は考えた。夢を諦めて彼女と一緒にいたほうが幸せだっただろうかとか、告白なんてしなければお互いこんな切ない気持ちにならなかったのだろうかとか、過去の選択について何度も考えたんだ。

でも、若かったあの頃、何も怖くなかった。
ただ、あなたの優しさが怖かった……

って、それは違う「かぐや姫」やないかーい!


書いてて思ったけどこれ研究室の人に見られたら生きてけないなんてもんじゃないなマジで
いや別に、かわいいなって思ったけど恋愛感情持ったわけじゃないよ。
まあそりゃ、付き合ってって言われたらアレやけどね……へへ……

久々に妄想垂れ流した
我ながら「ベテルギウスが、リア充爆発しろと言った」のフレーズはなかなか良かったと思う